自画像・肖像

Self-Portraits and Portraits
最初のセクションでは肖像画、とりわけ自画像に注目します。デ・キリコがその画業の初期から取り組んできた自画像は、過去の巨匠たちの作品との対話において最も重要なテーマのひとつです。彼は自画像において、様々な衣装をまとい、自己を演出していきます。
《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》

1959年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》の前でポーズを取るジョルジョ・デ・キリコ、1968年、自宅のサロンにて

Photo: Walter Mori
(提供:ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団)

《弟の肖像》

1910年、油彩・カンヴァス
ベルリン国立美術館
© Photo Scala, Firenze / bpk, Bildagentur fuer Kunst, Kultur und Geschichte, Berlin
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

形而上絵画

Metaphysical Painting
デ・キリコは1910年代に、簡潔明瞭な構成で広場や室内を描きながらも、歪んだ遠近法や脈絡のないモティーフの配置、幻想的な雰囲気によって、日常の奥に潜む非日常や、神秘、謎を表した絵画を描き始めます。ニーチェの哲学に影響を受けたその作品群は、後に自ら「形而上絵画」と名付け、シュルレアリストなど多くの芸術家に衝撃をあたえました。
イタリア広場
1910年にフィレンツェに移ったデ・キリコは、ある日、見慣れたはずの街の広場が、初めて見る景色であるかのような感覚に襲われます。これが形而上絵画誕生の「啓示」となりました。「イタリア広場」のシリーズはその原体験と密接に関連しており、柱廊のある建物、長くのびた影、不自然な遠近法により、不安や空虚さ、憂愁、謎めいた感覚を生じさせます。
《バラ色の塔のあるイタリア広場》

1934年頃、油彩・カンヴァス
トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館(L.F.コレクションより長期貸与)
© Archivio Fotografico e Mediateca Mart
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《イタリア広場(詩人の記念碑)》

1969年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

形而上的室内
第一次世界大戦の勃発により軍から召集を受けたデ・キリコは、1915年にフェッラーラの病院に配属されます。ここで彼は、この町の家の室内、店先のショーウインドウなどに魅せられ、室内画を制作していきます。このシリーズは、線や四角、箱、地図、ビスケットなどのモティーフを組み合わせて構成されました。
《福音書的な静物Ⅰ》

1916年、油彩・カンヴァス
大阪中之島美術館
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《「ダヴィデ」の手がある形而上的室内》

1968年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《球体とビスケットのある形而上的室内》

1971年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

マヌカン
デ・キリコは「形而上絵画」において、マヌカン(マネキン)をモティーフとして取り入れました。これにより、古典絵画において重要なモティーフであった人物像を、他のモティーフと同じモノとして扱うことが可能となりました。マヌカンはしばしば、謎めいたミューズたち、予言者や占い師、哲学者、はたまた自画像など、様々な役割を演じています。
《形而上的なミューズたち》

1918年、油彩・カンヴァス
カステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館(フランチェスコ・フェデリコ・チェッルーティ美術財団より長期貸与)
© Castello di Rivoli Museo d'Arte Contemporanea, Rivoli-Turin, long-term loan from Fondazione Cerruti
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《予言者》

1914-15年、油彩・カンヴァス
ニューヨーク近代美術館(James Thrall Soby Bequest)
© Digital image, The Museum of Modern Art, New York / Scala, Firenze
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《ヘクトルとアンドロマケ》

1924年、テンペラ・油彩・カンヴァス
ローマ国立近現代美術館
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《南の歌》

1930年頃、油彩・カンヴァス
ウフィツィ美術館群ピッティ宮近代美術館
© Gabinetto Fotografico delle Gallerie degli Uffizi
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《不安を与えるミューズたち》

1950年頃、油彩・カンヴァス
マチェラータ県銀行財団 パラッツォ・リッチ美術館
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《ヘクトルとアンドロマケ》

1970年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma 
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

1920年代の展開

Developments in the 1920s
1920年代、デ・キリコは従来のマヌカンに加え、「剣闘士」などの新たな主題にも取り組みます。その新しい主題のひとつが「室内風景と谷間の家具」です。これらの作品では、海や神殿、山々など、本来は外にあるはずのものが天井の低い部屋の中にあり、逆に屋内にあるべき家具が外に置かれており、ちぐはぐで不穏なイメージを作り出しています。
《緑の雨戸のある家》

1925-26年、油彩・カンヴァス
個人蔵
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《谷間の家具》

1927年、油彩・カンヴァス
トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館(L.F.コレクションより長期貸与)
© Archivio Fotografico e Mediateca Mart
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伝統的な絵画への回帰:「秩序への回帰」から「ネオ・バロック」へ

Return to Traditional Painting ― From "Return to Order" to the Neo-Baroque Period
デ・キリコは1920年ごろから、ティツィアーノやラファエロ、デューラーといったルネサンス期の作品に、次いで1940年代にルーベンスやヴァトーなどバロック期の作品に傾倒し、西洋絵画の伝統へと回帰していきます。過去の偉大な巨匠たちの傑作から、その表現や主題、技法を研究し、その成果に基づいた作品を描くようになります。
《岩場の風景の中の静物》

1942年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《風景の中で水浴する女たちと赤い布》

1945年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

新形而上絵画

Neo-Metaphysical Painting
1978年に亡くなるまでの10年余りの時期に、デ・キリコは、あらためて形而上絵画に取り組みます。それらは「新形而上絵画」と呼ばれ、若い頃に描いた広場やマヌカン、そして挿絵の仕事で描いた太陽と月といった要素を画面上で総合し、過去の作品を再解釈した新しい境地に到達しています。
《オデュッセウスの帰還》

1968年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma 
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《オイディプスとスフィンクス》

1968年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《燃えつきた太陽のある形而上的室内》

1971年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《瞑想する人》

1971年、油彩・カンヴァス
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024